賢哲なる恣意性

桐峰矜公式ブログ

  

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リサーチの行き着く先

   

どのような規模のビジネスであれ、リサーチという作業は不可欠である。自分自身、扱う商品、競合企業、市場規模、そして見込み客。まだまだ細かく挙げればいくらでもあるが、とにかく自分のビジネスに関係がありそうな情報は多ければ多いほど良い。

 

とりわけ、最後の最後まで難問なのが、「結局のところ、この商品は売れるのだろうか?」という問いである。最も根本的かつ本質的でありながら、どうにも掴みどころがない感がある。これを別の角度から言い換えれば、「“誰が”この商品を買うのだろうか?」である。

 

「誰が」というのはもちろん顧客(見込み客)なのだけど、ここでの「誰が」というのはそういう母集団の意味ではない。より正確に表現するなら「どのような購買根拠を持つに至った人々が」という事である。

 

これは、市場がまだ気付いていない潜在的なニーズがどうこうといったベタな話を持ち出すまでもなく、まだこの世に存在していない商品に対するニーズなど見込み客が自覚しているわけがない場合が多い。だからこそ、直接的に市場に問いかけたところで、見込み客の側も答えることはできないだろう。

 

そういう意味でも、この「“どのような購買根拠を持つに至った人々が”この商品を買うのだろうか?」という問いの答えこそが最も重要であって、ビジネスの主体として市場から最も汲み取っていかなければならない部分なのである。

 

さて、では一体、この問いの答えはどうやったら得られるのだろうか。

 

最も有効な方法論は「同化」である。これは別にオレ自身が独自に考えついたわけではまったくないけれども、非常に理に適っていると感じる。つまり、顧客(見込み客)と同じ人間になるという事だ。正確には、「同じような思考様式を持った人間になる」という意味だが。

 

何故なら、野球をまったく知らずにバットやグローブの良し悪しを語る事はできない。ロックにまったく興味もないのにどんなエフェクターが良い音を生み出すのかを説明できはしない。ましてや、赤の他人にモノを売るなど不可能である。

 

オレが好きな起業家(経営者でもある)の一人であるニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝氏からは、この論点において学べることが多い。彼は当然ながらウイスキーの創り手(造り手)であり売り手である。けれども、彼の言動や性格やアイデンティティなんかを資料などから少しばかり読み解いていくと、何よりもまず、極めて熱心なウイスキーの「飲み手」であった事がうかがえる。

 

つまり、マーケティング用語で言う「ヘビーユーザー」である。それも、かなり重度の(笑)

 

おそらく彼は「ウイスキーを飲みたいという欲求」に関しては世界一と言っても良いレベルの理解をしていただろう。それほどの情熱があるからこそ、いくらでも試行錯誤を積み重ねることができたのだ。(まあ彼の場合はリサーチによってその域に至ったわけではない気もするが)

 

いずれにしても、見込み客との「同化」である。見込み客が何を考えて生きているのか、その思考や行動やライフスタイルまでをも完璧にトレースしてそれをある程度まで抽象化できればリサーチは完成したと言って良いだろう。

 

これこそが「リサーチの行き着く先」である。

 

よほどの根性がない限り、自分が興味のない分野に対してこの域までリサーチを完成させられる事はごく稀だろう。その過程には精神的なストレスも多い。「理解」とは、つまるところ「同化」であって、それは自分自身のアイデンティティが揺らぐ事と表裏一体でもある。

 

まあ、それほどまでに他者を理解するという事は困難であって、簡単に「理解できた」などとは口が裂けても言えないなと改めて思うのであった。

 

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